カチカチ山で富士山とある女性に出会った物語

富士山を初めて間近で見たのは、河口湖近くにあるカチカチ山からだった。
正確には河口湖に向かっている途中のバスだったりするけれど。
そのカチカチ山には登山でいく方法もあるのだが、ロープウェイで登った。
スニーカーだし。というのが理由。

山頂に到着したのが午前11時頃。
手すり近くのベンチに座り、富士山のその荘厳さに心打たれた。

「こんなに大きな山だったのか」と心底、ビックリした。

「寝そべっている女性のおっぱいに似てるなぁ」なんて思って、後輩に画像つきでメール送ったっけか。

レンズ(広角、標準、望遠)を変えつつ一通り撮り終わった後は、階段状に並んでいる長椅子を兼ねているような所の隅の方に座り、ただずっと眺めていた。

桜や梅があったり、木の枝に積雪があったりする訳じゃなかったし、快晴に近かったから、当時の感覚としては撮りようがなかったから1時間もせずに撮影は終わったと思う。

今だったら、声掛けしたりして撮る(ストリートポートレート撮影)んだろうけど、当時はそんな発想もないし勇気もないし。

そんな折、ふと右の方に気配がした。

一人の女性が、僕に密接する形で隣に座ったのだ。

「ん?他にも沢山座る所あるのに…」と思ったが、それ以上の思考は富士山に持って行かれた。

ガサガサ聞こえだしたので、また女性の方をみると、カバンから画材を取り出しているところだった。

どうやら絵描きさんらしい。

当時は、デッサンなんて美術の時間に習った程度しか知らなかったから、ちょっと興味があってチラチラみていたのだが、ズラーッと鉛筆を並べていて、「え?なんでこんなにあるの?」ってビックリ。んで、被写体(山)に対して鉛筆を立てたり、横にしたりするのをみて、「へぇ、マジでそんな事やるのか」と関心した。
ただ、被写体にしているのが富士山ではなく、富士山の右の方にある南アルプス(荒川岳や赤石岳)の方を描こうとしていたみたい。

「富士山を描かないとは…」と逆に興味を持ったが、「色んな人がいるよね」って事でまた富士山観賞。

暫くして視線をずらすと、その女性は右前方に立っていて目があった。

「お手洗いに行きたいので、荷物をみててもらえますか?」
「はい、いいですよ」

盗まれる危険もありますからね。って、その時点で彼女とは初対面なのだが、信用されていたみたい。
富士山を食い入るように眺めている変人さんを信用の対象にするとは…と思ったが、カメラを持ってきていたし「純粋に山が好きな人なんだろう」と解釈したのかもしれない。

僕もそれにならって、お手洗いの時は荷物を見てもらった。

それから少しずつ話すようになった訳だけど、彼女は日本全国を旅しながら山々の絵(水彩画)を描く画家だという事が分かった。しかもプロの画家。

そして、なんと壮絶な美人。背が低くて目が大きく顔が整っていた。名前に漢字二文字で、「清」が入っていた気がするが覚えていないし、連絡先も交換しなかった。
僕の故郷である鹿児島の桜島に行ったという事で話は盛り上がって沢山話したっけ。

いつの間にか2時くらいになり、とうとうその画家さんは下山するという。
「この近く泊まっているんです。下山しませんか?」と聞かれた。

迷ったよ。超絶美人で何やら誘われている…

でも、二つの理由で断った。

一つは、もっと富士山を見たかったから。
もう一つは、仮にこの女性と深い仲になったとして、彼女が「放浪の旅をやめて近くにいたい」って言いだしたら嫌だなと。
夢を追いかけてほしい。その気持ちが、彼女に対する恋心だったのかもしれない。

「ロープウェイの最終まで、ここに残ります」と答えた。

それからは、ロープウェイの最終時刻である16時頃までいたっけ。

「最終ですよー」って乗務員の声が聞こえて、「太陽が富士山に沈むところを撮りたかったなぁ」と無念を残しつつ、ロープウェイに戻る事に。その途中、インド人の男性に声をかけられて、「富士山って綺麗ですね」って日本語で言われて「そうですね」って返した。
最終のロープウェイに乗ると、日本人は僕のみ。
あとは、フランス人、イギリス人、ドイツ人、そして先程のインド人夫婦。

みんな乗ったと思うんだけど、なかなか出発しない。そうこうしている内に、あたりは夕日に染まり、富士山に太陽が沈みだしていた。ロープウェイからも少し見えたのだが、とても綺麗だったよ。

そうしていると、フランス人が「うぉー」みたいな歓声と共にロープウェイから脱出。
ベストポジションらしき方向い走っていった。それをみていた僕を含めた乗客も、つられるように脱出。

みんなで、「すげーすげー」言いながら写真撮りまくり。

背後では車掌が、かなり怒っていて「早く乗って下さい!」って

みんな満足そうにロープウェイに再乗車し、母国語が違うから感情だけで喜びを共有していた。

カチカチ山を下りてから、あの女性が泊まっているホテルは分かっていたのだが、「家に戻るか」って事でバスと電車を使い帰宅。

河口湖を思い出す度、その時の情景が浮かぶのだが、彼女は今も放浪しているのだろうか。

この記事をみて、連絡してくれないかなぁとちょっと期待しているけれど、そんな偶然起きたら奇跡以外あり得ない。

ちなみに、あれからカチカチ山には行っていない。電車とバスの乗り換えだけでクタクタになるし、新宿からバス一本でいける山中湖に行くようになった。

彼女に会えるかな…という期待がある。あるけど、叶ってしまったら彼女の旅が…夢が変わってしまう。

彼女は彼女の道を一生歩んでほしい。僕と関わる事で人生が悪い方へと狂うのは目に見えている。

撮影&記事:Tatsuya

風景は見て楽しむのが好き

ずっと前、「風景は見て楽しむのが好き」と言われた事があった。
当時は、撮る事にはまっていて、その言葉に共感する気持ちなど微塵もなかったのだが、あれから10年が経ち、僕も同じ気持ちになった。

「風景は見て楽しむのが好き」

きっかけは花火…富士山…なんだったろう。あらゆる風景写真を撮った過去を振り返り考えが変わったのだろうか。
間近で見た花火の荘厳さに心をうたれながらも写真を撮り、動画も撮った。
そして、見返しても、あの時の気持にはなれない。
富士山もそうだ。寒さに震えながらダイヤモンド富士に備えて半日粘って、奇跡的に雲から富士山が見えて撮影出来た。
そして、PCで撮影した写真を見ても、あの場所で感動した気持ちを100%感じる事は出来ないし、日に日に写真に対する感動は消えていく…

でも、脳内の記憶を再生すると、あの時の感情が蘇るのだ。
それでも、人は過去を忘れながら生きていくもの。
いつかは色あせるのだろう。

写真も動画も平面的なものだ。
そしたらVR動画ならどうだろうか?と今、考えている。

早くお金を貯めて、撮影し確かめたい。
そして、早く実行しなくてはいけない事があるのだ。
これは多分、多くの人が望んでいる事なのかもしれない。
望んでいなくても、自分は望んでいる。
ただ、僕には時間がないのだ。

撮影&記事:Tatsuya

写真家 Tatsuya